実家に帰るたび、どこか違和感を覚える瞬間があります。
母の声が少しかすれて聞こえたとき。
父の背中が、思っていたより小さく見えたとき。
昔と同じように笑っているのに、
その笑顔の奥に、わずかな疲れが見えたとき。
「いつの間に、こんなに…」
そう心の中でつぶやいた瞬間、
“親の老い”という現実が、静かに目の前に現れます。
それは、ある日ふと訪れる“気づき”
老いとは、カレンダーのように日付でわかるものではありません。
気づけばじわりと滲み出し、
思い出の中の親と、目の前の親の間に小さな“ズレ”が生まれる。
たとえば──
- 庭の草むしりを途中でやめた父
- 料理をしながら、少し焦げてしまう母
- メールの返信がゆっくりになった親
そんな些細な変化が積み重なるうちに、
私たちはようやく「時間が流れている」ことを身をもって知るのです。
親の変化を、悲しみではなく“合図”として受け取る
「もう年だから」と思うたびに、どうしても切なさが込み上げます。
けれど、それは“終わりのサイン”ではなく、“寄り添うタイミング”の合図なのかもしれません。
今まで元気にしてくれていたから、つい後回しにしていた感謝の言葉。
まだ大丈夫と思っていたから、何も伝えずにきた想い。
そのすべてを、少しずつ取り戻せる時間が、今ここにあります。
「一緒にごはんでも食べようか」
「久しぶりにどこか行こうか」
そんな一言からでいい。
“老い”を感じることは、“優しさを思い出すこと”でもあるのです。
「昔の親」と「今の親」は、どちらも本当の姿
子どものころに見ていた親は、いつも強くて、頼りがいがあって、どこか完璧に見えました。
でも歳を重ねた今、少し弱さを見せる親の姿に戸惑う自分がいます。
けれど本当は、昔の親も、今の親も、同じ一人の人間。
ただ、見え方が変わっただけなんです。
親の老いを受け入れることは、「人は誰もが変わっていく」ことを認めること。
それは、人生の優しさを知る瞬間でもあります。
「もっと早く気づけばよかった」と思う夜に
夜、ふと写真を見返すと、笑っている親の顔がたくさん並んでいます。
どの笑顔も、その時々の自分を支えてくれていた。
もし今、「もっと早く親孝行しておけば」と思っても、それは“気づけた証”。
後悔は、やさしさの形を変えただけ。
だからこれからでも遅くない。
会いに行けなくても、電話一本、メッセージひとつでいい。
“親を想う時間”を取り戻すことこそ、今できるいちばんの親孝行です。
受け止めることは、背負うことではない
老いを受け止めるというと、「何かしてあげなきゃ」と身構えてしまう人もいます。
でも大切なのは、“何をするか”ではなく、“どう向き合うか”。
ただ笑い合う。
ただ一緒にご飯を食べる。
ただ話を聞く。
その「ただ」が、どれほど尊いかを知ったとき、
私たちはようやく“親の老い”を優しさとして受け止められるようになるのだと思います。
おわりに
親の老いは、悲しいことではなく、「ありがとう」を伝えるための合図です。
少しゆっくりになった歩幅に合わせて、並んで歩ける今という時間を、どうか大切に。
親を想う気持ちは、きっと形を変えながら、これからも続いていきます。
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